表尾根で丹沢山

小田急線

 だからあそこで待っていてって言ったでしょ。

それなのに自分で行くって

ついてきたんだからね!

塔ノ岳から丹沢山への登山道で

突然響く怒鳴り声。

私は丹沢山から塔ノ岳へ、

声の主は塔ノ岳から丹沢山へ。

小学5年生くらいの男の子が、

疲れた、これ以上歩きたくないとでも言ったのか。

それでもしっかりした足取りで

上り坂を歩いている。

お母さんは怒鳴った直後に出くわした私に、

驚きながらも

挨拶を返してくれた。

 山はつらい。

登りは特につらい。

下りももちろんつらい。

でもある種の人間にとって、

それはたまらなく癖になる行動。

だが、大多数の人間にとっては、

辛いだけでさっぱりわからん

二度と登りたくない

嫌な思い出

それが登山なんです。

 どこから登って来たかは知らないが、

たぶん大倉尾根を登り

塔ノ岳を登頂したのだろう。

それだけでも大したものなのに、

お母さん

欲を出して丹沢山まで歩きたくなったんだね。

子育て中だと忙しくて、

なかなか登山するチャンスがない。

そんな中

やっとの思いで登った塔ノ岳。

ここで帰ったら

またいつ登れるかわからない。

このチャンスに丹沢山に登りたい。

そう思ったのね。

わかるよ、わかる。

でもね、塔ノ岳に息子を置いて、

一人で丹沢山に登ってはだめだよ。

塔ノ岳で2時間、

不安な気持ちで待つことなんて

誰にも出来やしない。

必死でお母さんについて行くよ。

 先程すれ違ったご婦人も言っていた。

丹沢山まで結構あるわね。

もっと楽かと思っていた。

そうなのよ。

塔ノ岳から丹沢山は

距離も短く楽という印象がある。

それはたぶんその先の

丹沢山から蛭ヶ岳

蛭ヶ岳から檜洞丸の稜線が、

アップダウンが激しい

すっごく辛いコースだから。

でも楽な道なんてない。

表尾根を歩いた私の足は、

丹沢山で悲鳴を上げた。

この足では下山するのが精一杯。

蛭ヶ岳まで歩くなんて

全く考えられなかった。

 親子とすれ違った後、

男の子だけ私が

塔ノ岳へ連れて行ってあげた方が良かったのかな

なんてちょっと思った。

もちろん人様の大事な子供を

危険な山で

その命を預かるなんて

絶対無理だけど。

お母さん、自分で何とかしてくださいよ。

下山するまでが登山です。

途中、山小屋が沢山あるから

かき氷でも食べさせて

暗くなる前に

無事下山することを祈ります。

 子育てしていると

それが永久に続くと錯覚するけれど、

長い人生において

それはほんのわずかな期間でしかない。

登山するチャンスはいくらでもやってくる。

私は毎週登ってますよ。

だからお母さん。

子供連れて無理しないで、

おばさんになってから

沢山登りましょう。

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